7.1 ルール違反行為を重ねる
賃借人
7.2 共同利益違反者に対する
専有部分引渡し請求
7.3 フローリングの騒音トラブル
に伴う賠償請求
7.4 マンションの漏水事故と
損害賠償
7.5 フローリング騒音を理由と
する防音工事及び損害賠償請求
7.6 マンション漏水事故について管理組合は責任を負うか
8.1 老朽化による法廷建替え
8.2 阪神・淡路大震災被災マンション建替決議最初の司法判断
8.3 建替決議無効確認請求
管理組合顧問
管理規約作成・変更
大規模修繕計画相談
マンション管理に関する
相談(小規模修繕含む) 
マンションみらいネット業務
耐震診断(業者紹介)
地震保険加入(業者紹介)
マンション管理業者紹介
(注意事項あり)
■ 原マンション管理士事務所
◎マンション管理問題判例
8.1 老朽化による法廷建替え
弁護士 折田 泰宏(けやき法律事務所)

大阪地方裁判所 平成11年3月23日判決

 平成11年3月23日、大阪地方裁判所第20民事部は、平成8年4月に区分所有法62条に基づくマンションの建替決議を行った S住宅の区分所有者9名(専有部分8戸)が、右決議が同条の要件に該当しないこと等を理由に無効確認をもとめた訴訟で、右建替決議は有効であるとの判断を下しました。  この判決は、マンションの多数決による建替えの要件を定めた区分所有法62条の特別多数決決議による建替えの事例はこのときまでは存在していませんでした。  同条を巡る裁判としては、この事件以外に尼崎支部、神戸地裁に4件の裁判が進行していますが、これらはいずれも阪神・淡路大震災による損壊に対する建替えの事例です。その意味で、この判決の帰趨は、いずれはこの問題に直面せざるをえない全国のマンション管理組合にとって、極めて影響が大きいといわざるをえません。

1.本件マンションの建物の概要
 S住宅は、北大阪急行線利中央駅から東北へ500mの距離にあり、交通の便が良く、また隣地には広大な公園があり、極めて緑豊かな環境にあります。  都市計画法上の用途地域は第一種中高層住宅専用地域、第二種高度地区であり、周辺も分譲マンションの大規模な団地が建ちならんでいます。  昭和42年5月に大阪府住宅供給公社により分譲され、敷地面積は24,348uあり、4階建ての建物が12棟で構成され、242戸の専有部分を擁しています。  建物全体の建築面積は4,368uで、建ぺい率の割合は17.9%(公法上の規則は60%)、延べ床面積は16,638uで、容積率の割合は68.2%(同200%)であって十分な余裕があります。1戸当たりの面積は56.21uから55.17uです。

2.建替決議に至る経過と決議内容
 このマンションは、分譲以来、管理組合(団地管理自治会)による自主管理による管理がなされてきました。分譲後の約20年を経過した昭和61年に各区分所有者らに対してなされたアンケート調査を契機に、昭和62年に区分所有者の中で建替検討委員会が発足し、建替案の検討が始まりました。  平成元年頃から、外部のコンサルタントも参加して平成2年3月には建替計画についての調査報告書が作成されました。この報告書では各区分所有者は、「洗濯機置場がない。」「収納が少ない。」、「給排水や電気容量に問題がある。」、「住宅が狭い。」等の不満があり、全体の92.3%が建替えに賛成していると報告されています。  管理自治会は、その後、計画のコンペ、住民に対する説明会等を実施して計画をすすめてきましたが、平成7年頃から建替え推進派から区分所有法62条による法廷建替えの実施の声が出るようになり、平成8年4月各棟ごとに建替決議のための集会の招集がなされ、4月21日、各集会で建替決議がなされました。  決議による建替内容は、この敷地に最高24階建ての建物を7棟建築し、約500戸の専有部分部分を創設すること、現区分所有者には等価交換方式により平均75uから80uの専有部分部分を割り当てることという内容ですが、T工務店が事業者として等価交換方式で進める計画とされていました。  決議の結果は、6棟において全員賛成、6棟において1名ないし2名の棄権反対者が出るという状況で法廷の多数決要件を満たす決議がなされました。

3.本件訴訟の概要
 建替決議に基づいて、平成8年8月に建替え参加者代表者により建替不参加者に対して売渡請求権が行使され、同年12月3日、不参加のうち5名が建替決議無効確認を求めて提訴し、その後建替参加者から9名の不参加者に対して売渡請求権の行使よる明渡し及び所有権移転登記手続き請求を求めた訴訟が提起され、これ併合されて本訴訟となりました。

4.本判決の内容と問題点
 本判決の主たる争点は、区分所有法62条の客観的要件(「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至った」こと)の成否です。  結論的に言えば、本判決は、区分所有者建物1戸当たりの建物価額が約300万円であること、当面必要な補習費用でも、控えめにみて1戸当たり500万円強の費用を要すること、仮に右費用を投じても回復される建物としての機能は建築時で用を要すること、仮に右費用を投じても回復される建物としての機能は建築時である昭和42年当時の機能水準に留まり、専有部分の狭隘さを初めとして、エレベーターや洗濯場がない等の生活上の不便さは解消できないことを総合勘案して、客観的要件は成立すると判断しました。  この判断の前提として、判決は62条について従来から議論されてきた点について重要な判断をなしていますが、ここでは主要な判示事項とこれに対する筆者の見解を述べておきたいと思います。
@ 「老朽」の概念として、本判決は、物理的事由によるものであり、社会経済的事由は含まないこ と、建物の効用維持回復費用には建物の社会的要求水準(効用増)を所期する費用は改良費用であるから、これに該当しないと明言しました。これは通説的見解で妥当な判断ですが、一方では、「その他の事情」の要素には「陳腐化、不便さ」が考慮されると判断しました。この点は議論のあるところですが、「その他の事由」として効用増の必要性を認めるとすることは、効用増による法廷建替えを否定し老朽化に限定した本制度の趣旨を没却した解釈であると言わざるをえないと考えます。

A 「老朽」の概念の把握について、不動産鑑定評価の分野(耐用年数35年ないし40年)及び税務上の評価(耐用年数60年)の観点からの判断がなされ、本建物は「根本的な大規模修繕」が必要な時期が到来していると認定しました。この認定のために本判決は、かなり紙数を費やして、屋上防水、外壁開口部の構造クラック、ベランダや窓庇部分の防水の劣化、鉄筋の露出、内部鉄筋の腐食による爆烈、給水管、排水管の劣化等の現象を認定しました。 この点は事実認定の問題と一般的に建物の耐用年数をどう見るかという問題に関わっています。実は、本訴訟では、建物の現状について鑑定はなされておらず、また管理自治会においても本格的な調査をしていません。建替参加者の主張も現象だけからの主張にすぎず、裁判所の判定はこれによったものでした。しかし、このマンションに生じている現象は一定の経過を経たどのマンションにもしょうずるものであり、通常は定期的な大規模修繕によって補修をするものですが、このマンションの場合は修繕積立金の額が極端に少ない、昭和55年頃から大きな補修はなされないまま放置されてきました。建替参加者が主張する建物の後退現象はこのために生じているものであると思われ、技術的に容易に補修が可能なものと思われます。裁判官はこれを認めず、本建物は根本的な補修が必要なものと考えたようです。 また、判決は、建物の寿命について不動産鑑定の分野や税法上の分野での耐用年数を採用しましたが、これらは、現在の建物の維持管理技術水準からすると全く根拠のないものとなっており、建築学の立場からの建物の寿命について目が向けられるべきでした。

B 改修費用の見積りについて、裁判所は参加者から提出されたT工務店の見積りを原則的に採用しました。これによると、1戸当たり1,173万円余りになり、最低限度の工事に限定しても1戸当たり645万円を要するとしています。 これに対して非参加者側からは、過去のほかのマンションの大規模修繕の実例をもとに、1戸当たり100万円から120万円で可能であるとの証拠を提出しましたが、何ゆえか本判決ではこれについて何らの判断も示しませんでした。事実認定上の問題です。

C 建物の価額の評価も争点の一つであり、判決は参加者が提出した再建築費用から経済的耐用年数に基づく減価修正をなした意見書を採用したために、30年を経過している本マンションについてはかなり低い価額に認定されることとなりました。 非参加者は建物の経済的耐用年数を基準とする現在の不動産鑑定評価基準のあり方を批判し、使用価値に準拠すべきことを主張しましたが受け入れられませんでした。 この問題は中古マンションの不動産鑑定のあり方にも関わる問題ですが、原価法による積算価格では市場価格に実態を反映していない現実を直視して、不動産鑑定評価基準に依存することのない司法の判断が期待されるところでした。

D 手続き上の瑕疵の問題として、非参加者は団地管理組合の決議が必要であると主張したところ、裁判所はこれを必要とせず、これを必要としている本マンションの団地管理規約は向こうであると判断した。 しかし、本マンションには団地管理組合固有の管理財産である集会所、敷地が存在しており、これらの建物、敷地の変更を伴う建築決議については当然団地管理組合の決議も併せて必要であったと考えます。

5.所見
 築後30年のマンションの建替えを認めたこの判決に対する反応は様々でしょう。同じような古さのマン ションの居住者は、自分たちのマンションも建替える時期に来ているかと不安な気持ちで受け止めたでし しょう。一方では、建替えの方向で検討しているマンションでは、全員の合意形成を諦めて法定建替えに 走ることになるかもしれません。  しかし、どちらの側にも理解しておいてほしいことがあります。一つは、本マンションは維持管理が極めて 不十分なマンションであって、通常の維持管理を行っていれば30年程度の経年で建替えが必要なほど 建物が傷むことはないということです。   二つめは、十分な合意形成の努力を放棄して法定建替えに走ることは、必ず本件のような法定闘争に  陥り、計画が大幅に遅延し、場合によっては挫折する危険があるということです。実際、全国で始め老朽 化による法定建替決議をなした大阪のある団地では、非参加者が決議無効の裁判を提起した途端に、等価交換方式で事業に参加する予定であったデヴぇロッパーが降りてしまい、建替え事業の遂行を断念せざるをえなくなりました。  これから多くのマンションが次から次と老朽化という問題を抱えることとなります。しかし、その解決手段は建替えことだけにあるのではありません。既存不適合の状態にあり建替え自体検討のしょうもないマンションも多くあります。今後はるフォーム、リニューアルの技術は飛躍的に進歩することが期待でき、幅広いメニューの中から無理のないマンションの更生を考えたいものです。