7.1 ルール違反行為を重ねる
賃借人
7.2 共同利益違反者に対する
専有部分引渡し請求
7.3 フローリングの騒音トラブル
に伴う賠償請求
7.4 マンションの漏水事故と
損害賠償
7.5 フローリング騒音を理由と
する防音工事及び損害賠償請求
7.6 マンション漏水事故について管理組合は責任を負うか
8.1 老朽化による法廷建替え
8.2 阪神・淡路大震災被災マンション建替決議最初の司法判断
8.3 建替決議無効確認請求
管理組合顧問
管理規約作成・変更
大規模修繕計画相談
マンション管理に関する
相談(小規模修繕含む) 
マンションみらいネット業務
耐震診断(業者紹介)
地震保険加入(業者紹介)
マンション管理業者紹介
(注意事項あり)
■ 原マンション管理士事務所
◎マンション管理問題判例
8.3 建替決議無効確認請求
弁護士 吉水 三治(吉水法律事務所)

神戸地方裁判所 平成13年1月31日判決

1.事件のあらまし
 神戸市兵庫区の Aコーポは、昭和43年11月建築の鉄骨鉄筋コンクリート造13階建で、1階から3階までは神戸市が所有し水道局事務所として使用し、4階以上の住戸90戸が分譲され住居として使用されています。 Aコーポの住戸90戸の区分所有者は、Aコーポ管理組合(Y)を作ってAコーポの管理をしています。 Aコーポは、平成7年1月の阪神・淡路大震災で損傷し、建替えるか補修するかでもめていましたが、Yは、区分所有法62条に基づく Aコーポ建替えの是非を決定するため、平成9年9月14日臨時総会を招集して議決をとりましたところ、賛成72票(区分所有法62条で必要な5分の4ぎりぎり)で建替が決議されました。反対票を投じた10名(X)は、Yに対し、建替決議無効確認の訴えを提起し、他方、賛成者の一部(Z)は、Xに対し、建替決議に基づいて受渡請求権を行使したうえ、Xに対し、所有権移転登記と明渡しを求める訴えを提起し、両訴訟が併合審理されることになりました。

2.事件の争点
@ 建替決議無効確認という訴えを提起できるのか。
A 複数の住戸所有者は複数の議決権があるのか。
B 登記名義人でない者が区分所有権者として議決権を行使できるのか。

3.裁判の内容
 裁判所は、
@ 建替決議無効確認の訴えを適法と判断しました。
A 3戸あるいは2戸を所有する者の議決権数はそれぞれ1票で計算すべきであると判断しました。
B 自己名義で3戸あるいは2戸を区分所有する者が自分名義の1戸以外の2戸あるいは1戸につき実質上の所有者が他にいるから、3票あるいは2票で計算すべきであると主張することはできない、と判断しました。 そして結論として、建替決議の賛成票の場合は、(72票-3票=69票) ÷(90票−3票=87票)=0.7931となり、5分の4 (0.8)に達しておらず決議を無効と判断しました。

4.判決の理由
争点@
 建替決議に基づき売渡し請求をした者が提起する所有権移転登記請求等の複数の訴えが併合審理される保障はなく、判断が区々に分かれるおそれがある。したがって、売渡請求の基になる建替決議自体の効力を独立して確定する意味があるから、訴えは適法である。

争点A
 区分所有法62条1項が建替決議の成立条件として議決権の5分の4以上の多数の賛成をも必要としているのは、建物の区分所有関係における意思決定には、財産権としての面から各区分所有者の有する区分所有権の大きさで決めるだけでなく、一つの管理共同体としての面からその構成員である区分所有者の数による多数の意見を反映させなければならないとの考慮に基づくものである。したがって、1人の区分所有者が複数の専有部分を所有している場合、区分所有者としての定数は全部で1人と計算するのが相当である。

争点B
 Yが誰に集会招集通知を発し議決権を行使させるか(誰を区分所有者として扱うか)の基準は、 登記簿上の記載(区分所有者として登記されている者か)によるべきである。実質的な権利関係を基準にしなければならないとすると、Yが実質上の所有者が誰かを調査しなければならず、Yに過度の負担を強いている可能性があり、採決に参加した者が事実の区分所有者でなかったと後になって主張することを許さなければならず法廷安定性が損なわれるので、画一的で明確性のある登記簿上の記載によるとするのが相当である。

5.解説
 Yは、建替決議から派生する法的効果は売渡請求権だけなので、売渡請求に伴う所有移転登記請求訴訟の前提問題として建替決議の効力を判断すれば足りるので、建替決議無効確認という訴えを認める必要はないと主張しました。  また、Aコーポに住む甲氏は、403、703、1003号の3戸を甲名義で所有し、乙氏は、809、1005号の2戸を乙名義で所有しています。Yは、甲氏について、3戸のうち1戸は甲氏の単独所有であるが他の1戸は実質的には甲氏と実母の共有であり残りの1戸は実質的には実母の単独所有であると主張し、乙氏について、2戸のうち1戸は乙氏の単独所有であるが他の1戸は実質的には長女とその夫の同意了承を得て賛成を投じたから、賛成票を72票で計算したのは正しい、と主張しました。これに対し、Xは、Yの負担と法的安定を考えると、誰を区分所有者として扱うかは、登記簿に所有者と記載されている人を区分所有者として扱うべきである、と主張しました。

@ 建替決議の無効確認を求める形式での訴訟を起こせるかどうかについて明文の規定はありません。一般的には、確認の利益があるときには、確認訴訟を起こせる解釈されています。建替が決議されたとき、建替賛成者は、反対者に対し、区分所有権の売渡しを請求できることになっていますから、理論的には賛成した18名のZは、反対した18名Xに対し、売渡しを請求し、所有権移転登記明渡請求訴訟を別々に18件起こせることにあります。18の訴訟で別々に建替決議の効力を確定するためだけの訴訟を認める実益があり、このような形の訴えを起こせることになります。これは、通説です。

A 区分所有法62条1項は、「区分所有者及び議決権の5分の4以上の多数」で建替議決権の各5分の4以上の賛成の両方を必要とするという意味です。したがって、全戸について別人が同一専有面積の1戸をもっている場合は両者が一致し問題ありませんが、それ以外の場合は、区分所有者数と議決権数を確定して、それぞれの5分の4を満たしているかどうかを判断する必要があります。

B 区分所有法が建替決議には専有面積による議決権の5分の4 の他に区分所有者数の5分の4 以上の賛成が必要と定めているのは、議決権割合だけで決議できるとすると、区分所有建物の大部分を所有している特定の少数者の専横を許すことになりますので、これを防ぐためです。この立法趣旨から、複数の住戸を所有する区分所有者は、区分所有者としては1人と計算することになるわけです。

C 本件では、90戸の Aコーポで、甲氏が3戸、乙氏が2戸を所有していますので、区分所有者の総数は、甲乙をそれぞれ1人と数えますから、90-2-1=87名となります。甲、乙氏の区分所有者としての議決権を3票、2票と計算したことは間違っており、それぞれ1票ですので、賛成票は72-2-1=69票となります。

D Yの規約は、管理組合に「組合員は、その所有する住戸1戸につき各1戸の議決権を有する」と定めています。これが、3戸あるいは2戸を所有する組合員には、3票あるいは2票の区分所有者数としての議決権がある、という意味であれば、区分所有法62条に反する規約で無効となります(通説)。

E 管理組合は、区分所有権が売却され入居者が交代すると新しい入居者を組合員として受け入れるのが普通の扱いだと思います。管理組合が、新入居者について所有権移転登記をうけているかを登記簿謄本によって確認することまでされているのか定かではありませんが、改まって、何を基準にして組合員と認定するのかと問われますと、やはり登記簿の記載による他ないと思われます。管理組合が登記名義人以外に本当に所有権をもっているものがいるのではないかを調査しなければならないとしますと、その負担は大変なものとなります。その意味で、登記簿に区分所有者として記載されている者を区分所有者として扱うというのは、当然の解釈と思います。

6.管理組合の今後の対応
@ 規約を点検され、登記簿に「区分所有者と記載された人を区分所有者として扱う」となっているかを確認しておく必要があります。もし、不明瞭であれば規定の改正を検討しておく必要があります。また、組合員が変更するときは、登記簿謄本の写しを提出してもらうという対応が必要となります。
A 複数の住戸の所有する区分所有者は、建替えや大規模修繕の決議については、区分所有者としての投票数は1票しかないことを規約上明記する方向で規約改正を検討しておくほうがよいでしょう。